<コラム>キツネの家畜化実験
キツネの家畜化実験
「キツネの家畜化実験」は、1959年に旧ソビエト連邦で始まった世界的に有名な家畜化研究である。
正式には、アカギツネ(ギンギツネ系統)を対象に、人に対して友好的な個体だけを何世代にもわたって選択交配した長期実験であり、「家畜化(domestication)」の仕組みを解明することを目的としていた。
この研究は現在もロシアの研究施設で継続されており、進化や行動学、遺伝学の分野で高く評価されている。
1959年、ソビエト連邦(現在のロシア)の遺伝学者「ドミトリー・ベリャーエフ」によって実験が開始された。
当時、「犬はどのように家畜化されたのか」という疑問に答える方法はほとんどなかったためベリャーエフは、
「人を恐れない個体だけを選んで繁殖させれば、犬のような変化が起こるのではないか」
という仮説を立てたことから始まる。
アカギツネ(ギンギツネ系統)が実験に選ばれたのは当時毛皮産業のため多数飼育されていたことや犬に近い仲間であること、繁殖しやすいことなど実験に好条件であったためである。
実験方法
研究者は毎世代、生まれた子ギツネに対して下記のような人との接触テストを行った。
・人を見ると近寄るか
・尻尾を振るか
・抱かれることを嫌がらないか
・威嚇しないか
・人の手を噛まないか
などを観察し、人を強く恐れる個体は繁殖には使わず、最も人懐っこい個体だけを繁殖に用いた。
この方法を何十世代にもわたって繰り返した結果、数世代後には大きな変化が見られるようになる。
・人を見ると尻尾を振る
・名前を呼ぶと近寄る
・人に甘える
・撫でられることを好む
・飼い主を追いかける
など、犬のような行動を示す個体が増えていった。
これらの変化は、人懐っこさだけを選択して繁殖した結果として現れたものである。
さらに興味深いことに、行動だけでなく外見にも変化が現れた。
代表的な変化には、下記のようなものがある。
・白い毛の斑点
・垂れ耳
・巻いた尾
・短い鼻
・丸い顔
・小型化
これらは犬や他の家畜にもよく見られる特徴であり、「家畜化症候群(Domestication Syndrome)」と呼ばれている。
変化したのは行動や外見だけではなく、
・ストレスホルモンの減少
・繁殖時期の変化
・鳴き声の変化
・学習能力の変化
なども報告されている。
これらは人への恐怖心を減らす選択が、体全体に影響を及ぼした可能性を示している。
そもそも家畜化とは、人間が長い年月をかけて望ましい特徴を持つ個体を選んで繁殖させることである。
犬だけでなく、牛や馬、羊、ヤギ、豚、ニワトリなども家畜化によって現在の姿となっている。
今回のキツネの実験はその過程を短期間で再現しようとした研究といえる。
結果としてキツネは家畜化(ペット化)できたわけではないが、 家畜がどのように誕生したのかを理解する重要な手がかりを掴むことができた実験であることは確かである。
現在の研究
この研究は現在もロシアの研究機関で継続されており、
・遺伝子
・ホルモン
・行動
・神経科学
・進化
など、さまざまな分野で研究対象となっている。
家畜化の仕組みを理解するうえで、世界でも最も有名な長期実験の一つである。