きつねとしょせい/ひさいしじょう 狐と書生/久石譲

「狐と書生」は、久石譲による映画『赤狐書生(Soul Snatcher)』の劇伴曲である。2021年2月19日にデジタルリリースされた『赤狐書生(オリジナル・サウンドトラック)』の1曲目に収録され、楽曲時間は3分16秒である。Apple Musicでは作曲・パフォーマーともに久石譲とクレジットされている。 映画『赤狐書生』は2020年12月4日に中国で公開されたファンタジー映画で、日本では2021年10月22日から『レジェンド・オブ・フォックス 妖狐伝説』の邦題で上映された。物語の中心となるのは、狐の妖怪・十三と、都へ試験を受けに向かう貧しい書生・子進である。 十三は狐仙になるため、子進の体内にある最高位の「白丹」を狙って近づく。しかし旅を続けるうちに二人は本当の友人となり、十三は「狐仙になるため子進を犠牲にするか」「友を救うか」という選択に直面する。 「狐と書生」という曲名は、この物語の二人の主人公をそのまま表したものと考えられる。狐=十三、書生=子進であり、単なる狐のイメージ曲ではなく、妖狐と人間の友情を描く映画全体を象徴するタイトルである。

基本情報

タイトル:狐と書生
作曲:久石譲
アーティスト:久石譲
使用作品:映画『赤狐書生』
日本公開題:レジェンド・オブ・フォックス 妖狐伝説
英題:SOUL SNATCHER
収録作品:赤狐書生(オリジナル・サウンドトラック)
配信日:2021年2月19日
収録順:1曲目/全34曲
楽曲時間:3分16秒
形態:インストゥルメンタル/映画劇伴
レーベル表記:A UNIVERSAL SIGMA release
権利表記:℗ 2021 UNIVERSAL MUSIC LLC
映画製作国:中国・香港

サウンドトラック全体は34曲・1時間19分で構成されている。

楽曲について

「狐と書生」は歌詞を持たない映画劇伴である。

そのため、この楽曲単独で「狐が何を考えているか」「書生との間に何が起きたか」を言葉で説明する作品ではない。

意味を理解するうえで重要なのは、これがサウンドトラックの1曲目であることだ。

アルバムは、

  1. 狐と書生
  2. 月夜の集い
  3. 旅の始まり
  4. 蚌人探し
  5. 逃げるロバ
  6. 密談
  7. 静かな街
  8. 苦海書院
  9. 蛙の罠
  10. 妖怪蛙

と続き、最終盤には、

「真実」
「英蓮の死」
「決裂の時」
「天命」
「最後の願い」
「怒りの決戦」
「子進のために」
「本物の狐仙」
「小白と子進」

といった物語展開を強く反映したタイトルが並ぶ。

つまり「狐と書生」は、壮大な物語の冒頭に置かれた、十三と子進という二人の関係を象徴する楽曲である。

キツネとの関係

「狐と書生」は、狐との関係が極めて明確な映画音楽である。

曲名の「狐」は、映画の主人公の一人である狐妖・十三を指す。

シネマートの日本向け公式紹介では、十三について、

「狐の妖怪である十三」

と明記されている。

十三は狐界では落ちこぼれだが、憧れの「狐仙」になることを目標としている。

そのため本作における狐は、

実在の動物としてのキツネ

ではなく、

人間の姿を取ることのできる妖狐

である。

さらに最終的には「九尾の狐仙」という存在も物語の重要な目標として登場するため、

妖狐
狐仙
九尾の狐

といった中国の狐文化が物語の根幹に組み込まれている。

狐妖・十三

映画の狐側主人公が十三である。

日本の公式紹介では「十三」、中国語では白十三と呼ばれる。リー・シエンが演じている。

十三は狐界きっての落ちこぼれ。

狐仙になることを夢見ている。

しかし狐仙になるためには、人間から「丹」を得なければならない。

そこで最高峰の丹である「白丹」を持つ人間を探して人間界へ向かう。

十三が見つけた白丹の持ち主こそ、書生・子進である。

ここから、

狐

と

書生

の物語が始まる。

書生・子進

曲名のもう一方である「書生」は王子進を指す。

日本公式では「子進」と表記され、チェン・リーノンが演じている。

子進は貧しい書生で、仕官のための試験を受けるべく都へ向かっている。

十三とは対照的に、人間の世界でまじめに生きる素朴な青年である。

しかし本人の知らないところで、その身体には「白丹」が宿っている。

十三にとって子進は、

狐仙になるために必要な獲物

である。

ところが旅を通じて、

かけがえのない友人

へ変化していく。

この関係の変化こそ、『赤狐書生』の中心である。

「狐と書生」という題名

本曲の題名は非常に簡潔である。

狐。

書生。

その二者を「と」でつないだだけである。

しかし映画そのものも、

狐妖・十三

と

書生・子進

という二人の関係を中心に展開する。

そのため「狐と書生」という曲名は、映画『赤狐書生』の物語を最も端的に表現した名称でもある。

中国語の原題「赤狐書生」も、

赤狐
+
書生

という構造になっている。

日本語版サウンドトラックでは、それをより自然な日本語として、

「狐と書生」

と表現した形になっている。

映画『赤狐書生』

『赤狐書生』は、中国・香港製作のファンタジー映画である。

中国では2020年12月4日に公開された。監督はソン・ハオリンとイー・リーチー。主演はリー・シエンとチェン・リーノンである。音楽を久石譲が担当した。

原題:赤狐書生
英題:SOUL SNATCHER
日本題:レジェンド・オブ・フォックス 妖狐伝説

日本では2021年10月22日から「のむコレ'21」で上映された。上映時間は125分である。

日本題「レジェンド・オブ・フォックス 妖狐伝説」

日本公開時には『レジェンド・オブ・フォックス 妖狐伝説』という邦題が付けられた。

原題「赤狐書生」では、

狐
書生

という二人の主人公を並べている。

一方、日本題では、

フォックス
妖狐

と、狐要素がより強調された。

日本で宣伝する際には、本作が「妖狐を主人公としたファンタジー」であることを分かりやすく前面へ出したタイトルになっている。

白丹

十三の目的となるのが「白丹」である。

日本公式のあらすじでは、丹の最高峰が「白丹」であり、それを得た者は「伝説の九尾の狐仙」になれると説明されている。

そして白丹を持っている人物が子進である。

そのため十三にとって、

子進を犠牲にする
↓
白丹を得る
↓
九尾の狐仙になる

という道が用意されている。

狐にとって最高の到達点が「九尾」という設定になっている点は、狐文化を扱ううえで特に重要である。

九尾の狐仙

本作では、九尾は単なる恐ろしい妖怪ではない。

十三が憧れる「狐仙」の最高位として扱われている。

日本では九尾の狐というと、

玉藻前
殺生石
妖怪
災い

といった恐ろしいイメージが強い。

一方、中国の狐文化では狐が修行や長い年月を経て霊力を増し、「狐仙」となる考え方も存在する。

『赤狐書生』ではこちらの方向性が強く、

狐妖
↓
修行・丹
↓
狐仙
↓
九尾の狐仙

という成長の目標が物語へ組み込まれている。

狐仙

「狐仙」は、中国の民間信仰や怪異文化で知られる霊的な狐である。

普通の狐よりも長く生き、力を蓄え、人間にはない能力を持つ存在として語られる。

「妖狐」というと日本では悪い妖怪の印象を持ちやすいが、中国文化では狐は、

妖
仙
神霊

の境界をまたぐ複雑な存在として描かれることがある。

『赤狐書生』の十三も、

現在は狐妖

だが、

狐仙になることを目指している。

つまり「妖怪の狐から、より高位の狐へ昇る」という考え方が物語に採用されている。

人間の姿になる狐

十三は映画中、人間の青年の姿で行動する。

これは東アジアの狐伝承に非常によく見られる特徴である。

狐は人間へ化ける。

女性になる場合もあれば、男性になる場合もある。

『赤狐書生』では、リー・シエン演じる青年の姿で子進へ接近する。

当初は目的を隠して友人を装うため、

人間へ化ける
相手を騙す
本当の目的を隠す

という古典的な「化け狐」の特徴を持っている。

しかし物語が進むと、その「偽りの友情」が本物へ変化していく。

「化かす狐」から「友になる狐」へ

物語開始時の十三は、典型的な化け狐に近い。

人間の姿になる。

子進へ近づく。

目的を隠す。

信用させる。

そして最後には丹を奪うつもりでいる。

ところが子進は、十三の思惑を知らず、純粋に友人として接する。

旅の中で二人は助け合う。

妖怪と戦う。

危険を乗り越える。

その結果、十三は次第に子進の命を奪えなくなっていく。

古典的な、

狐が人間を化かす

という物語から、

狐と人間が本当の友情を築く

という物語へ変化するのである。

狐と人間の友情

日本向け公式紹介でも、本作の重要なテーマとして十三と子進の友情が強調されている。

十三は最初、白丹を奪うために子進へ近づく。

しかし行く手を阻む妖怪たちとの戦いや旅を通じて、子進を本当の友として意識するようになる。

そして最後には、

狐仙になる夢

と

友人の命

のどちらを選ぶのかを迫られる。

そのため『赤狐書生』は妖狐ファンタジーであると同時に、

「異なる種族の若者二人の友情」

を描いた物語でもある。

久石譲が惹かれた「友情」

久石譲も、映画の中心にある二人の友情へ注目していた。

映画制作時のインタビューでは、本作についてファンタジー・アクションでありながら、二人の若者の友情がしっかり描かれている点を評価し、音楽的にもエンターテインメントとして楽しめる作品に仕上げたという趣旨を語っている。

そのため『赤狐書生』の音楽は、

妖怪だから怪しい音楽

だけで作られているのではない。

十三と子進が徐々に友情を築いていく感情の変化も、劇伴全体の重要な軸となっている。

そして最初の一曲が「狐と書生」である。

この題名は、映画音楽全体が「この二人の物語」を描くことを示しているようでもある。

「小白」

サウンドトラックの最終曲は、

「小白と子進」

である。

つまりサウンドトラックは、

1曲目「狐と書生」

から始まり、

34曲目「小白と子進」

で終わる。

最初は種族で呼ばれている。

狐。

書生。

しかし最後には、

小白。

子進。

という、個人としての呼び名へ変化している。

この曲名の変化は非常に興味深い。

最初は、

「狐」と「人間」

だった二人。

最後には、

「小白」と「子進」

という友人同士になる。

サウンドトラックのタイトルだけでも、二人の距離の変化を感じ取ることができる。

ただし、この1曲目と最終曲の命名を意図的な対比として久石譲本人が説明した資料は確認できないため、トラック構成から読み取れる特徴として扱うのがよい。

「本物の狐仙」

最終曲の直前、33曲目には、

「本物の狐仙」

が収録されている。

序盤の十三が目指していたものは「狐仙になること」である。

しかし物語が進むにつれ、

丹を奪うこと
力を得ること
九尾になること

だけが「本物の狐仙」とは限らないことが示されていく。

友情や自己犠牲を通じて、十三自身の狐としての成長が描かれる。

「狐と書生」は、その成長物語が始まる最初の地点に位置している。

狐を悪役だけにしない物語

『赤狐書生』の大きな特徴は、狐妖を主人公として描いていることである。

狐は確かに人間を騙す。

人間から丹を奪おうとする。

妖怪である。

しかし物語は、

狐=悪

で終わらない。

十三にも夢がある。

未熟さがある。

友情を知る。

葛藤する。

そして人間のために決断する。

狐を一人の主人公として描くことで、従来の「人間を惑わせる妖怪」という狐像を、友情と成長の物語へ発展させている。

『聊斎志異』を思わせる世界

中国には、狐妖や人間と妖怪の交流を描いた怪異文学の長い伝統がある。

特に蒲松齢の『聊斎志異』には、

狐
幽鬼
妖怪
書生

が数多く登場する。

そのため、

狐妖

と

若い書生

が出会う『赤狐書生』の構図は、中国怪異文学で非常に馴染み深い組み合わせでもある。

ただし映画公式が『聊斎志異』の特定篇を直接原作としたと説明しているわけではないため、

「中国怪異文学の狐と書生という伝統的な組み合わせを連想させる」

程度に留めるのが適切である。

「書生」と狐

狐伝承では「書生」は非常に相性のよい人物類型である。

若い男性の書生。

夜道。

旅。

試験。

美しい人物や怪しい人物との出会い。

そして、その正体が狐や幽霊だった。

という構図は、中国の怪異物語で繰り返し用いられてきた。

『赤狐書生』は、この古典的な構図を現代的なファンタジー・バディムービーへ変換している。

つまり、

狐が書生を誘惑する話

ではなく、

狐と書生が一緒に旅をする話

になっているのである。

サウンドトラック

『赤狐書生(オリジナル・サウンドトラック)』は、2021年2月19日にデジタルリリースされた。

全34曲、総収録時間は1時間19分。Apple MusicではA UNIVERSAL SIGMA release、℗ 2021 UNIVERSAL MUSIC LLCと記載されている。

久石譲の作品情報をまとめる資料でも、

2020年12月4日:中国公開
2021年2月19日:サウンドトラック配信
2021年10月22日:日本上映

という流れが確認できる。

34曲すべて久石譲

サウンドトラックの音楽は久石譲が担当している。

Apple Musicでもアルバムアーティストは久石譲であり、個別曲「狐と書生」についても久石譲がパフォーマー・作曲者として記載されている。

作品後半には、

「天命」
「最後の願い」
「怒りの決戦」
「子進のために」
「本物の狐仙」
「小白と子進」

と、十三と子進の関係を追うタイトルが連続している。

一枚を通して聴くことで、一匹の狐妖と一人の書生の旅を音楽で追える構成になっている。

久石譲

久石譲は、日本の作曲家・指揮者・ピアニストである。公式プロフィールでは、現代音楽の作曲家として活動を始め、ミニマル・ミュージックを背景に映画音楽やオーケストラ作品など幅広く活動している。

宮崎駿監督作品をはじめ多くの映画音楽で知られるが、中国映画『赤狐書生』でも全編の音楽を担当した。

中国作品でありながら、日本の作曲家・久石譲が、

狐妖
書生
妖怪
中国幻想世界

を音楽で描いている点も、本作の特徴である。

狐関連楽曲としての位置付け

「狐と書生」は、狐との関係が非常に深い映画劇伴である。

確認できる狐要素を整理すると、

映画の主人公・十三が狐の妖怪
十三は人間の姿を取る
狐仙になることを目指している
最高位として九尾の狐仙が登場
人間・子進の白丹を狙って近づく
旅を通して狐と人間が友人になる
日本公開題にも「フォックス」「妖狐」が入る
サウンドトラックには「本物の狐仙」など狐関連曲も存在する

という特徴を持つ。

特に「狐と書生」という題名は、単に映画の一場面を表すだけではない。

物語全体が、

狐妖・十三

と

書生・子進

の関係そのものだからである。

最初、狐は書生を騙すために近づく。

書生は何も知らず狐を友人として受け入れる。

狐は人間を犠牲にすれば、憧れの九尾の狐仙になれる。

しかし旅を続けるうちに、人間を化かしていたはずの狐の方が友情に心を動かされていく。

「力を得て狐仙になること」と「友を守ること」のどちらが、本当の意味で立派な狐なのか。

その問いへ向かって進む映画の入口に置かれた楽曲が「狐と書生」である。

狐を悪役や怪異としてだけではなく、一人の未熟な若者のように描き、人間との友情を通じて成長させる中国の妖狐ファンタジーを象徴する、久石譲による重要な狐関連映画音楽である。

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