かにくいきつね カニクイキツネ
食肉目イヌ科カニクイキツネ属に分類される南アメリカ原産の哺乳類である。
概要
カニクイキツネは、食肉目イヌ科カニクイキツネ属に分類される南アメリカ原産の哺乳類である。雨季に湿地や川辺でカニなどの甲殻類を食べることから、この名前が付けられた。
カニだけを専門に食べるわけではなく、昆虫、小型哺乳類、爬虫類、両生類、鳥類、果実、動物の死骸など、利用できるものを幅広く食べる。環境や季節に合わせて食物を切り替えられる、適応力の高いイヌ科動物である。
現生のカニクイキツネ属に含まれる種は、カニクイキツネのみである。
基本情報
- 分類:哺乳綱・食肉目・イヌ科・カニクイキツネ属
- 学名:Cerdocyon thous
- 英名:Crab-eating fox
- 別名:マイコン、サバンナギツネ、モリイヌ
- 頭胴長:平均約64.3センチメートル
- 尾長:平均約28.5センチメートル
- 体重:約5~8キログラム
- 分布:パナマおよび南アメリカの広い地域
- 生息環境:サバンナ、草原、森林、低木地、湿地、川辺、農地など
- 食性:雑食
- 活動時間:主に夜間および薄明薄暮時
- IUCNレッドリスト:低懸念(LC)
- ワシントン条約:附属書II
名前の由来
和名と英名は、湿地や川辺でカニを食べる習性に由来する。英語ではCrab-eating foxのほか、Savanna fox、Forest foxなどとも呼ばれる。
属名のCerdocyonは、ギリシャ語でキツネを表す語と犬を表す語を組み合わせたものである。キツネと犬の両方を思わせる外見を表している。
南アメリカでは「マイコン」や「カショーホ・ド・マト」など、地域によってさまざまな名前で呼ばれている。
外見
中型のイヌ科動物で、体は比較的細いが、四肢は短く頑丈である。吻は細長く、耳は幅広く先端がやや丸い。尾は長く、密生した毛に覆われている。
背中は灰褐色を基本とし、黒、灰色、褐色、黄色、白色などの毛が混ざる。顔、耳、四肢には赤褐色の毛が見られ、喉と腹部は白色またはクリーム色である。背骨に沿って黒い筋が走り、耳、四肢、尾の先端も黒くなることが多い。
毛色には大きな地域差がある。森林に暮らす個体は灰色や黒色が強く、開けた草原に暮らす個体は褐色や黄色を帯びる傾向がある。Animal Diversity Web
分布
南アメリカ大陸の広い範囲に分布する。コロンビア、ベネズエラ、ガイアナ地方、ブラジル、ボリビア、パラグアイ、ウルグアイ、アルゼンチン北部などで確認されている。1990年代にはパナマでも記録され、南アメリカ北部から中央アメリカ南端へ分布を広げている可能性がある。
アンデス山脈の西側やアマゾン熱帯雨林の奥深くには少ないが、森林の周辺部、サバンナ、湿地、農地などでは比較的広く見られる。
生息環境
サバンナ、草原、低木地、乾燥林、湿地、河畔林、森林の縁、海岸林など、多様な環境を利用する。ブラジルではセラード、カアチンガ、パンタナール、大西洋岸森林などにも生息する。
季節によって利用する場所を変えることがある。雨季には水没を避けて高い土地へ移動し、乾季には水や食物を求めて低地や湿地周辺を利用する。
原生的な環境だけでなく、牧草地、農地、果樹園、道路周辺など、人間によって変化した環境にも適応できる。ただし、人口密度の高い都市中心部や森林が完全に失われた場所を積極的に好むわけではない。
食性
非常に幅広いものを食べる雑食性である。カニなどの甲殻類、昆虫、クモ、小型哺乳類、鳥類、爬虫類、カエル、魚、卵、果実、種子、動物の死骸などを利用する。
食物の内容は地域と季節によって大きく変化する。雨季に水辺が広がる地域ではカニなどの甲殻類を多く食べ、乾季には昆虫や小型哺乳類の割合が増えることがある。特定の食物へ依存せず、その時期に多く得られるものを選ぶ日和見的な採食者である。
道路上で車にひかれた動物を食べることもある。この行動によって食物を得られる一方、カニクイキツネ自身も交通事故に遭いやすくなる。
果実を食べた後、移動先で種子を含む糞をするため、植物の種子散布にも関わっている。Animal Diversity Web
カニを食べる習性
雨季になると平原や湿地に水が広がり、カニやほかの水生動物を捕まえやすくなる。カニクイキツネは浅い水辺やぬかるみを歩き、見つけたカニを捕食する。
しかし、カニが一年を通して主食となるわけではない。水辺から離れた地域では、果実、昆虫、小型脊椎動物などが食事の中心になる。カニを食べる能力は、多彩な食性の一部である。
生態
主に夜間と夕方、早朝に活動する。日中は茂み、背の高い草、倒木の下、岩陰などで休む。自ら大きな巣穴を掘ることは少なく、アルマジロなどが残した穴を利用する場合がある。
通常は一夫一妻のつがいを形成する。雄と雌が一緒に移動することもあるが、採食時には離れて行動する場合が多い。食物が少なくなる乾季には縄張りを強く意識し、食物が豊富な雨季には複数の個体の行動圏が重なりやすくなる。
鳴き声によるコミュニケーションが発達しており、吠え声、遠吠え、甲高い声などを使う。つがいや家族が離れたときには、鳴き声で互いの位置を確認する。
繁殖
繁殖時期は地域の気候や食物の量によって異なり、一年を通して繁殖できる。11月から12月頃に交尾が多くなり、翌年の1月から2月頃に出産する地域もある。
妊娠期間は約52~59日で、通常3~6頭の子どもを産む。飼育下では年2回繁殖した記録があるが、野生でも同様に年2回繁殖するかは十分に分かっていない。
子どもは目と耳が閉じ、歯が生えていない状態で生まれる。生後約2週間で目を開き、生後約1か月で固形物を食べ始める。離乳は生後約3か月で、性成熟を迎えるのは生後9か月前後とされる。
雄と雌の両方が子育てに参加する。母親が授乳し、固形物を食べられるようになると両親が食物を運ぶ。両親は子どもの見張りや保護も行う。Animal Diversity Web
人間との関係
ネズミや昆虫を捕食するため、農業害獣の個体数を抑える役割を持つ。また、果実の種子を運ぶことで、森林や草原の植物の繁殖にも関わっている。
一方、鶏や小型家畜を襲うと考えられ、農家や牧場主によって射殺、捕獲、毒殺されることがある。実際に家畜へ与える被害は、カニクイキツネが受ける迫害の規模に比べて小さいとする報告もある。
交通事故、飼い犬との接触、感染症も問題となる。狂犬病や犬ジステンパーなど、飼い犬と共通する病気へ感染する可能性がある。
キツネとの関係
カニクイキツネは外見と名称からキツネとして扱われるが、アカギツネやフェネックなどが属するキツネ属ではない。独立したカニクイキツネ属に分類され、南アメリカで独自に進化したイヌ科動物の一つである。
南アメリカにはスジオイヌ属、タテガミオオカミ属、ヤブイヌ属、コミミイヌ属など、キツネやオオカミに似た独特のイヌ科動物が生息する。カニクイキツネもその一員であり、見た目が似ていてもユーラシアや北アメリカのキツネ属とは異なる系統に属する。
現生のカニクイキツネ属には本種しか存在しない。広い食性と多様な環境への適応力を備えた、南アメリカを代表するイヌ科動物である。
保全状況
IUCNレッドリストでは「低懸念(LC)」に分類されている。分布域が広く、多様な環境に適応できることから、種全体では比較的安定していると考えられている。また、ワシントン条約の附属書IIに掲載され、国際取引が規制されている。Animal Diversity Web
正確な総個体数は判明しておらず、すべての地域で安全というわけではない。家畜を襲うという理由による駆除、毛皮目的の狩猟、交通事故、飼い犬から広がる感染症、生息地の開発などが地域的な脅威となっている。
特に、予防接種を受けていない飼い犬や野犬から感染症が広がる危険が指摘されている。生息地の確保に加え、飼い犬の適切な管理や交通事故対策も保全に重要である。