うしときつね(たまにいぬ)/わあだきなの ふぃーちゃりんぐ ちせい ウシとキツネ(たまにイヌ)/ワアダキナノ feat. 知声
「ウシとキツネ(たまにイヌ)」は、日本の音楽クリエイター・ワアダキナノによる合成音声楽曲である。歌唱にはVoiSonaの「知声(Chis-A)」が使用されている。2023年3月18日に「ボカコレ2023春ルーキー」参加作品として公開された。 作詞・作曲・編曲はいずれもワアダキナノが担当する。楽曲では、周囲から正論を言われたり、将来を心配されたりする主人公が、「そんなことは自分でも分かっている」と反発しながら、ウシ、キツネ、イヌの鳴き声を利用した言葉遊びによって鬱屈した気持ちを吹き飛ばしていく。 タイトルにキツネが登場するものの、妖狐や野生のキツネを物語として描いた楽曲ではない。「コンコン」という日本でキツネの鳴き声として知られる擬声語を「こんな歌」という日本語へ接続した、音による狐モチーフが最大の特徴である。
基本情報
タイトル:ウシとキツネ(たまにイヌ)
アーティスト:ワアダキナノ
歌唱:知声(Chis-A)
作詞:ワアダキナノ
作曲:ワアダキナノ
編曲:ワアダキナノ
初公開:2023年3月18日
参加企画:ボカコレ2023春ルーキー
収録作品:Vada Quinano#2 Flowering
アルバム配信日:2024年10月17日
アルバム収録順:3曲目
楽曲時間:約2分53秒
国:日本
2023年3月23日には、ワアダキナノ本人のpiaproページでカラオケ音源も公開された。
その後、2024年10月17日にKARENTから配信されたEP『Vada Quinano#2 Flowering』に収録され、Apple MusicやSpotifyなどでも配信されている。
楽曲について
「ウシとキツネ(たまにイヌ)」の主人公は、周囲からさまざまなことを言われ続けている人物である。
大人から正論を言われる。
親から必要以上に心配される。
友人との空気も以前とは違うように感じる。
自分自身でも、このままではよくないことは理解している。
しかし、他人から改めて指摘されると、「そんなことは言われなくても分かっている」と反発したくなる。
ワアダキナノは本作について、「わかっててもどうしようもない事って多い」としたうえで、そんなときには歌って踊ってしまおう、という気持ちを込めた楽曲だと説明している。
その重くなり得るテーマを、動物の鳴き声やスキャット、軽快な言葉遊びによって明るく表現した作品である。
キツネとの関係
本作におけるキツネとの関係は、主に「鳴き声と言葉遊び」にある。
日本ではキツネの鳴き声を「コンコン」と表現することが広く定着している。
本作では、この「コン」を繰り返しながら、そのまま「こんな歌」という日本語へつなげる構成が使われている。
つまり、
キツネの鳴き声を表す「コンコン」
と、
日常的な日本語の「こんな」
を同じ音として利用している。
キツネが物語上のキャラクターとして登場するのではなく、「コン」という音そのものが楽曲へ狐を登場させているのである。
ウシ・キツネ・イヌ
タイトルには三種類の動物が登場する。
ウシ
キツネ
イヌ
である。
これらの動物は、それぞれ日本語で広く知られている鳴き声の擬声語と結び付けられている。
ウシ=モー/もう
キツネ=コン/こん
イヌ=ワン/わん
本作では、この鳴き声と通常の日本語が重なる性質を利用している。piaproで公開された歌詞でも、「もう」「こん」「わん」という音が反復され、それぞれ文の一部として成立するよう構成されている。
そのためタイトルの動物たちは、実際に物語へ登場する登場人物というよりも、言葉遊びを成立させるための動物モチーフである。
「コンコン」とキツネ
キツネ部分で使われるのが「コンコン」である。
実際のキツネはさまざまな鳴き声を発し、必ずしも「コンコン」と鳴くわけではない。しかし、日本では童謡や昔話などを通じて「キツネ=コンコン」という擬声語が非常に強く定着している。
本作はその文化的な約束事を利用している。
「コン」を連続させるだけで、歌詞に「狐」と直接書かなくても聴き手はキツネを連想できる。
その直後に日本語として意味の通る言葉へ変化するため、
鳴き声
↓
言葉
という切り替わり自体が笑いになっている。
「もう」とウシ
同じ仕組みがウシにも使用されている。
日本ではウシの鳴き声は「モー」と表現される。
本作では「もう」という音を連続させながら、「もうどうしよう」という困惑した言葉へ接続していく。
つまり「もう」には、
ウシの「モー」
と、
困惑や焦りを表す「もう」
という二重の意味がある。
主人公が将来や人間関係について焦っている内容と、ウシの鳴き声が同時に成立する構造となっている。
「わんわん」とイヌ
タイトルの「たまにイヌ」に対応するのが「わんわん」である。
日本ではイヌの鳴き声を「ワンワン」と表現する。
一方、人間が激しく泣く様子についても「わんわん泣く」という表現が使われる。
本作ではこの二つを重ねることで、
イヌの鳴き声
と、
主人公が泣く姿
を同時に成立させている。
ウシとキツネが繰り返し登場するのに対し、イヌは途中で加わるため、タイトルも「たまにイヌ」となっている。
動物そのものを描いた歌ではない
タイトルだけを見ると、ウシ・キツネ・イヌが登場する動物ソングのようにも見える。
しかし、実際の中心テーマは人間の焦りや自己嫌悪、周囲からのプレッシャーである。作者による曲紹介でも「そんなワタシはときどきウシになる(あと狐と犬とスキャットマンジョン)」とユーモラスに説明されている。
したがって、本作における動物は現実の動物ではない。
主人公の言葉や感情を表現するための「音のキャラクター」である。
キツネについても、
妖狐
九尾の狐
稲荷の狐
人を化かす狐
といった伝承上の性質は作品の中心には置かれていない。
キツネの文化的な鳴き声「コンコン」を利用した楽曲として分類するのが最も適切である。
「ちほちゃん」
「ウシとキツネ(たまにイヌ)」は、ワアダキナノのキャラクター「ちほちゃん」が初めて登場した楽曲でもある。
KARENTによる『Vada Quinano#2 Flowering』の公式紹介では、「ワアダキナノのアイコン『ちほちゃん』の初登場曲で出世作」として本曲が紹介されている。
ワアダキナノ本人も後年、「ちほちゃん」は「ウシとキツネ(たまにイヌ)」のキャラクターであり、自身のアイコンとして活動していることを説明している。
そのため本作は、楽曲としてだけでなく、ワアダキナノを象徴するキャラクターが誕生した作品でもある。
ボカコレ2023春
「ウシとキツネ(たまにイヌ)」は、「The VOCALOID Collection ~2023 Spring~」のルーキー部門へ参加した作品である。VocaDBのイベント記録にも、ワアダキナノ feat. 知声の参加曲として登録されている。
公開は2023年3月18日19時で、ボカコレ開催に合わせて投稿された。
当時のリスナーによる紹介でも、ファンキーでキャッチーな楽曲、スキャットを取り入れた楽しい作品として取り上げられている。
後にKARENTが本曲を「出世作」と紹介していることからも、ワアダキナノの活動を広く知られるきっかけとなった作品の一つであることが分かる。
スキャット
本作にはスキャットも大きく取り入れられている。
ワアダキナノがpiaproで公開している歌詞では、スキャット部分について「心の赴くままに言葉をつづってください」と記されており、決まった意味を持つ歌詞だけではなく、声そのものを音楽として楽しむ構成になっている。
KARENTも本曲の英語紹介で「funky and scatty」な作品として紹介している。
ウシの「もう」、キツネの「こん」、イヌの「わん」といった擬声語も、意味だけでなく音そのものを楽しむ楽曲の性格とよく結び付いている。
知声
本作の歌唱を担当する知声(Chis-A)は、テクノスピーチが展開する歌声合成ソフトVoiSonaの音声ライブラリである。
「ウシとキツネ(たまにイヌ)」は2023年の公開時から知声を使用しており、初音ミクWikiでも「唄:知声」と登録されている。
2024年にKARENTから配信された『Vada Quinano#2 Flowering』でも、本曲は「feat. 知声」として正式に収録されている。
ワアダキナノはその後も知声を使用した作品を多数発表しており、本曲はその活動を代表する初期作品の一つとなった。
『Vada Quinano#2 Flowering』
「ウシとキツネ(たまにイヌ)」は、2024年10月17日にKARENTから配信されたEP『Vada Quinano#2 Flowering』にも収録された。
同作は全6曲で構成され、本曲は3曲目である。
- 病ん気ィ不安期ィBABY
- ツムチセイ
- ウシとキツネ(たまにイヌ)
- Flowering
- このメロディは
- ココロはain't no good
KARENT公式では、「知声と知声に似せて歌った人間がデュエットする『ツムチセイ』」と並び、「ウシとキツネ(たまにイヌ)」をワアダキナノのアイコン・ちほちゃんの初登場曲かつ出世作として紹介している。
ワアダキナノについて
ワアダキナノは、日本の音楽・映像クリエイターである。
本人のpiaproプロフィールでは「音楽や映像やクソツイを作ります」と自己紹介しており、知声や初音ミクなどの合成音声を使用した楽曲を発表している。
「ウシとキツネ(たまにイヌ)」は、本人のリンク集でも「タイトルの割にカッコいい」と紹介されているほか、後の企画では代表曲として挙げられている。
本作では、キツネを妖怪や動物として描くのではなく、日本で定着した鳴き声「コンコン」を日本語の文章へ溶け込ませるという方法で狐を楽曲へ登場させている。
ウシの「モー」、キツネの「コン」、イヌの「ワン」という誰もが知る動物の鳴き声を、人間の焦りや感情を表す言葉へ変換した、言葉遊びという側面からキツネ文化と関係するユニークな楽曲である。