きつねあめのころ/かいほうなおと 狐雨の頃/海宝直人

日本の俳優・歌手である海宝直人が歌唱する楽曲である。2022年6月30日に発売されたソングサイクル・ミュージカル『雨が止まない世界なら』のコンセプトアルバムに収録され、2曲目に配置されている。作詞は西川大貴、作曲はジャズピアニストの桑原あいが担当している。 タイトルにある「狐雨」とは天気雨を意味し、日本で天気雨を「狐の嫁入り」と呼ぶ文化をもとにしている。楽曲では、狐雨の日に偶然出会った男女と、その後に訪れる「雨が止まなくなった世界」が描かれる。 キツネそのものが登場する動物の歌ではなく、「狐に化かされたような不思議な天気」という日本の狐文化を、偶然の出会いや人生の変化を象徴するモチーフとして使用した楽曲である。

基本情報

タイトル:狐雨の頃
歌唱:海宝直人
作詞:西川大貴
作曲:桑原あい
収録作品:ソングサイクル・ミュージカル『雨が止まない世界なら』コンセプトアルバム
発売日:2022年6月30日
収録順:2曲目
楽曲時間:約4分28秒
国:日本

コンセプトアルバムは2022年6月30日にCDとして発売され、2023年7月1日から各音楽配信サービスでのサブスクリプション配信も開始された。

楽曲について

「狐雨の頃」は、一人の男性が天気雨の日に偶然一人の女性と出会うところから始まる物語である。

主人公は、人通りの少ない国道沿いを歩いている際、ベンチにいた女性を見かける。普段の自分なら声をかけることなどできないはずなのに、その日はなぜか自然に声をかけることができ、短い時間を共にした末に連絡先を手にする。本人自身も、その出来事を「化かされた」ような不思議な体験として受け止めている。

この偶然の出会いを生み出したのが「狐雨」である。

狐雨が降ったから傘が必要になり、普段なら接点のなかった二人が出会うことになった。タイトルの狐雨は単なる背景ではなく、主人公の人生を大きく動かすきっかけとなっている。

『雨が止まない世界なら』

「狐雨の頃」は、独立した一曲でありながら、ソングサイクル・ミュージカル『雨が止まない世界なら』を構成する物語の一つでもある。

同作は「ある日降り始めた奇妙な雨がずっと降り止まなかったら、人は何を歌うだろう」という発想から生まれた短篇集形式のミュージカルである。2021年に誕生し、コロナ禍を体感した俳優やクリエイターたちが、その時代の感情を歌として残すことを目的の一つとして制作された。

作詞・構成を西川大貴、作曲を桑原あいが担当している。コンセプトアルバムには海宝直人のほか、田村芽実、昆夏美、咲妃みゆ、内藤大希、spi、七尾旅人など多数の歌手・俳優が参加している。

「狐雨の頃」はその序盤に置かれており、雨が降り続ける世界へ物語が移行していく重要な一篇となっている。

キツネとの関係

本作におけるキツネとの関係は、「狐雨」と「狐の嫁入り」という日本の文化にある。

楽曲冒頭では、天気雨について、日本では昔から「狐の嫁入り」と呼ばれてきたことが説明される。そして、晴れているにもかかわらず雨が降る不思議な状態を、まるで狐に化かされたような天気として捉えている。

狐は日本の昔話や伝承において、人間を化かしたり、幻を見せたり、普段とは異なる世界へ迷い込ませたりする存在として数多く語られてきた。

晴天と雨という本来なら相反する状態が同時に存在する天気雨も、その不可思議さから狐と結び付けられ、「狐の嫁入り」と呼ばれてきた。

「狐雨の頃」では、この文化的な狐のイメージが現代の男女の出会いへと置き換えられている。

狐雨

タイトルの「狐雨」は、本作では「天気雨」を意味する言葉として使用されている。作品公式の発信でも、「狐雨とは『天気雨』の事」と説明されている。

空には晴れ間があるにもかかわらず、同時に雨が降っている。

通常なら相反するはずの二つの天候が同時に存在することから、昔の人々にとっては不可思議な現象であった。それが「狐に化かされているようだ」という感覚と結び付き、「狐の嫁入り」と呼ばれるようになった。

本作では「狐雨」という短い言葉をタイトルにすることで、天気雨そのものだけでなく、

狐の嫁入り
狐に化かされる
現実とは思えない出来事
偶然起きた不思議な出会い

といった複数のイメージを重ねている。

狐に化かされたような出会い

主人公は、それまで何事にも理由をつけながら生きてきた人物として描かれている。

ところが狐雨の日だけは、いつもの自分なら取らない行動をする。

知らない女性へ声をかけ、その結果、二人の関係が始まる。公式の楽曲紹介でも、「全て何かのせいにして生きてきた男が、狐雨の日に運命的な出会いをする」と説明されている。

主人公にとって、その出来事は自分自身の意思だけでは説明できないほど突然だった。

そこで「狐に化かされた」と考える。

昔話では狐に化かされることは、道に迷ったり幻を見たりする恐ろしい出来事として描かれる場合が多い。しかし本作では、「化かされた結果、人生を変える相手と出会った」という肯定的な方向へ狐のイメージが使われている点が特徴である。

狐の嫁入りと結婚

本作に「狐の嫁入り」という言葉が使われていることは、物語にもう一つの意味を与えている。

「嫁入り」は文字通り婚姻を連想させる言葉である。

楽曲では狐雨の日に男女が出会い、その先に将来の関係を思い描く主人公の姿が描かれる。つまり「狐の嫁入り」という天候をきっかけに、人間同士の恋愛が始まるという構造になっている。

狐の婚礼を表す言葉が、人間の恋愛の始まりを導くという二重の意味を持っているところが、本作における狐モチーフの面白さである。

「雨」が持つ意味

狐雨によって始まった出会いは、その後の物語で大きく意味を変えていく。

『雨が止まない世界なら』では、突然始まった雨がそのまま降り止まなくなった世界が描かれる。

「狐雨の頃」の主人公にとって、雨は女性との出会いを生み出した幸運な出来事である。

しかし同時に、雨が止まらなくなったことで、二人の関係も簡単には進められなくなる。

出会いを生み出した雨が、今度は二人の間を隔てるものになる。

狐雨という一時的で不思議な天気が、やがて世界そのものを変えてしまう「止まない雨」へ変化していくところが、ソングサイクル全体との大きなつながりとなっている。

コロナ禍との関係

『雨が止まない世界なら』は、コロナ禍を体感する中で制作された作品である。公式サイトでは、俳優たちがコロナ禍を体感している中、その経験を「歌として形に残すこと」、そして劇場へ足を運べない人にも作品を届けることを目標にコンセプトアルバムとして発表したと説明されている。

「狐雨の頃」でも、出会ったばかりの男女が気軽に会えず、お互いのことを十分に知ることができない状況が描かれる。

そのため「雨が止まない世界」は、単なるファンタジー設定だけではなく、人と人との交流が突然制限された時代の感覚を反映した世界としても読むことができる。

ただし、本作の物語を特定の実際の出来事へ完全に置き換えるのではなく、あくまで「降り止まない雨」を題材にしたフィクションとして構成されている。

海宝直人による歌唱

「狐雨の頃」の歌唱は、ミュージカル俳優として活動する海宝直人が担当している。

レコーディングに際しては、作詞・構成を担当した西川大貴から、楽曲の意図や情景、その後に登場人物がどうなったのかを想像してほしいという内容を含む約20分のビデオメッセージが海宝へ送られたという。海宝はその説明を確認したうえで、本番のレコーディングに臨んでいる。

このことからも、「狐雨の頃」が単なるポップソングではなく、一人の人物の人生や、その後まで想像させるミュージカルの一篇として制作されたことが分かる。

海宝直人について

海宝直人は、日本のミュージカル俳優・歌手である。

舞台を中心に幅広く活動し、『レ・ミゼラブル』『アラジン』『ライオンキング』など多数のミュージカル作品に出演してきた。

『雨が止まない世界なら』のコンセプトアルバムでは「狐雨の頃」を担当し、一人の男性が狐雨の日に経験した偶然の出会いと、その後の希望や不安を一曲の中で演じている。

「狐雨の頃」は、キツネそのものを登場させる楽曲ではない。しかし、日本独特の「狐の嫁入り」「狐に化かされる」という文化を、偶然の出会い、恋愛、人生の転機へ結び付けている。

狐にまつわる伝承的な言葉を、現代のミュージカルにおける人間ドラマへと変化させた狐関連楽曲である。

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