くるぺおぎつね クルペオギツネ

南アメリカ大陸のアンデス山脈やパタゴニア地方に生息する大型のイヌ科動物である。

概要

クルペオギツネは、南アメリカ大陸のアンデス山脈やパタゴニア地方に生息する大型のイヌ科動物である。「アンデスギツネ」「クルペオ」「アカクルペオ」などとも呼ばれる。

外見はアカギツネに似ているが、キツネ属ではなく、南アメリカに固有のスジオイヌ属に分類される。タテガミオオカミに次いで、南アメリカ原産のイヌ科動物では2番目に大きい。

海岸付近から標高4,000メートルを超えるアンデス高地まで、幅広い環境に適応している。小型哺乳類やウサギ類を中心に食べる有力な捕食者であり、ときには家畜を襲うため、人間との衝突も起きている。

基本情報

項目

内容

分類

哺乳綱・食肉目・イヌ科・スジオイヌ属

学名

Lycalopex culpaeus

英名

Culpeo/Andean Fox

別名

アンデスギツネ、アンデスオオカミ、クルペオ

頭胴長

約44.5~92.5センチメートル

尾長

約30.5~49.3センチメートル

体重

約3.4~14キログラム

食性

肉食性の強い雑食性

主な活動時間

夜間、薄明薄暮時。地域によっては昼間も活動

分布

南アメリカ大陸西部・南部

保全状況

低危険種(LC)

国際取引

ワシントン条約附属書II

雄は雌より大きくなる傾向があり、南方の個体ほど体格が大きい。地域による差が非常に大きく、小型個体は一般的なキツネほどである一方、大型個体はコヨーテに近い体格となる。

名前の由来

「クルペオ」という名称は、チリやアルゼンチンに暮らす先住民マプチェの言語であるマプドゥングンの「culpeu」または「kulpew」に由来するとされる。

この呼び名がスペイン語の「culpeo」となり、学名の種小名「culpaeus」にも取り入れられた。

属名の「Lycalopex」は、古代ギリシャ語でオオカミを表す「lykos」と、キツネを表す「alopex」を組み合わせた名称である。「オオカミのようなキツネ」という意味を持ち、キツネに似ながら比較的大型で力強い姿を表している。

分類

クルペオギツネはスジオイヌ属に分類される。以前は「Pseudalopex culpaeus」という学名が広く使われていたが、現在は一般に「Lycalopex culpaeus」が用いられている。

スジオイヌ属には、クルペオギツネのほかに次のような南アメリカのイヌ科動物が含まれる。

  • パンパスギツネ
  • チコハイイロギツネ
  • セチュラギツネ
  • ダーウィンギツネ
  • スジオイヌ

これらは英語で「South American foxes」と総称されるが、アカギツネ、フェネック、ホッキョクギツネなどが属するキツネ属とは異なる系統である。

クルペオギツネには、アンデス地方、パタゴニア、フエゴ島などの個体群をもとに複数の亜種が提唱されている。ただし、亜種の区分や有効性については研究者によって見解が異なる。

外見

アカギツネに似た細長い吻と三角形の耳、長くふさふさした尾を持つ。ただし、アカギツネよりも頭部と胴体が頑丈で、脚も太く、全体的にオオカミやコヨーテに近い力強さがある。

背中は灰色または灰褐色で、黒い差し毛が混じる。頭部、耳、首、脇腹、四肢には黄褐色や赤褐色が現れる。顎、喉、胸、腹部は白色から淡い黄褐色である。

尾は太くふさふさしており、灰色を基調として黒い毛が混じる。尾の先端が黒いことは、クルペオギツネを見分ける重要な特徴の一つである。尾の付け根付近にも黒っぽい斑点が現れることがある。

北方の個体は比較的明るい色をしており、南方や寒冷地の個体は毛が長く、濃い灰色や赤褐色になる傾向がある。冬毛は夏毛よりも長く密になる。

分布

南アメリカ大陸西部を中心に、エクアドルからペルー、ボリビア、チリ、アルゼンチン南部まで広く分布する。

主な分布国は次のとおりである。

  • エクアドル
  • ペルー
  • ボリビア
  • チリ
  • アルゼンチン

コロンビア南部からも報告があるが、恒常的な個体群が存在するかについては不明な部分がある。

アンデス山脈に沿って南北に広がり、チリ北部の海岸砂漠、アルティプラノと呼ばれる高原、チリ中部の低木地、アルゼンチンの草原、パタゴニアのステップ、フエゴ島まで分布する。

生息環境

クルペオギツネは特定の環境だけに依存せず、南アメリカ西部の多様な自然環境を利用する。

主な生息環境には次のようなものがある。

  • アンデス山脈の高山草原
  • アルティプラノの高原
  • パタゴニアの乾燥ステップ
  • 砂漠と半砂漠
  • 温帯林
  • ナンキョクブナの森林
  • 硬葉樹林
  • 低木地
  • 農地や牧草地
  • 海岸地帯

標高0メートル付近から4,500メートルほどまで確認されている。別の記録では、標高4,800メートル付近まで現れるともされる。

低温、乾燥、強風、酸素の薄い高地など、厳しい環境にも適応できる。食べ物が少ない地域では広い行動圏を持ち、獲物を求めて長距離を移動する。

食性

肉食性の強い雑食性であり、地域に存在する獲物を柔軟に利用する。

主な食べ物は次のとおりである。

  • ネズミ類
  • デグー類
  • チンチラ類
  • ウサギ類
  • ヨーロッパウサギ
  • ノウサギ類
  • 鳥類
  • 鳥の卵
  • トカゲ
  • 昆虫
  • 動物の死骸
  • 果実
  • 種子

大型の個体は、若いグアナコ、ビクーニャの子供、フラミンゴなどを襲うこともある。健康な大型草食獣を常に狩るわけではなく、幼い個体、弱った個体、死骸などを利用することが多い。

パタゴニアでは、人間によって持ち込まれたヨーロッパウサギやヨーロッパノウサギが重要な獲物となっている。フエゴ島では、外来種として増加したビーバーを捕食した例も確認されている。

果実も食べるため、糞とともに種子を運ぶ。クルペオギツネの消化管を通過した一部の植物の種子では、発芽率が高くなることが報告されている。

狩り

単独で獲物を探し、優れた嗅覚と聴覚を使ってネズミやウサギを発見する。小型の獲物にはすばやく飛びかかり、噛みついて仕留める。

大型で脚力があるため、ほかの南米産の小型イヌ科動物よりも大きな獲物を扱える。若いグアナコを襲った際には、成獣のグアナコが集団で子供を守り、クルペオギツネを追い払う行動も観察されている。

食べ切れなかった獲物や死骸を地面に隠し、後から食べる場合もある。

生態

繁殖期以外はおもに単独で行動する。繁殖期にはつがいと子供からなる家族群が形成される。

活動時間は地域によって異なる。アルゼンチン、ペルー高地、チリ北部の砂漠、マガジャネス地方などでは夜行性の傾向が強い。一方、チリ中部では昼間や明け方、夕方にも活動する。

人間活動の多い地域では接触を避けるため、夜行性が強くなることがある。

行動圏の広さは餌の量と生息環境によって大きく変化する。獲物が豊富な半乾燥地では数平方キロメートル程度である一方、獲物が少ない高地砂漠では数百平方キロメートルに達した例がある。

糞や尿による匂い付けを行い、ほかの個体へ自分の存在を伝える。飼育下では、うなり声と叫び声を合わせたような鳴き声を発することが知られている。

巣穴

地面に掘られた穴、岩場の隙間、低木の茂み、倒木の下などを休息や繁殖に利用する。

自分で穴を掘るだけでなく、ほかの動物が作った穴を広げて使う場合もある。出産用の巣穴は、外敵や悪天候から子供を守れる場所に作られる。

アンデス高地では岩の隙間が重要な隠れ場所となり、パタゴニアの開けた地域では斜面や低木地の巣穴が利用される。

繁殖

南半球の冬から春にあたる8~10月ごろに交尾する。雌の発情は一年に一度で、妊娠期間は約55~60日である。

一度に生まれる子供は約3~8頭で、平均は5頭前後とされる。生まれたばかりの子供は目が閉じており、平均体重は約170グラムである。

子供は約2か月で離乳し、生後約7か月で成獣に近い体格になる。性成熟は生後約1年で迎える。

子育ての詳細には不明な点が残るが、雌だけでなく雄も食べ物を運ぶなど、両親が子育てに関わると考えられている。

天敵

成獣は南アメリカのイヌ科動物としては大型であるため、自然界で襲う動物は多くない。

ピューマに捕食されることがあるが、一般的な死亡原因ではないと考えられている。幼い個体は大型猛禽類やほかの肉食動物に襲われる可能性がある。

現在の主な脅威は人間による捕殺、交通事故、家畜防衛用の毒餌、感染症、生息環境の変化などである。放し飼いのイヌとの争いや、イヌからの病気の感染も問題になる場合がある。

生態系での役割

クルペオギツネは、南アメリカ西部における中型から大型の捕食者として重要な役割を持つ。

ネズミ類やウサギ類を捕食して個体数を調整するほか、外来種であるヨーロッパウサギやビーバーを捕食することで、生態系への影響を抑える場合がある。

死骸を食べることで有機物の分解にも関わる。果実を食べて種子を運ぶため、植物の分布拡大や森林の再生にも貢献している。

一方で、ほかの肉食動物とは餌をめぐって競争する。チコハイイロギツネなどの小型種と分布が重なる地域では、体の大きなクルペオギツネが餌場を優先的に利用することがある。

人間との関係

クルペオギツネは、ヒツジ、ヤギ、ニワトリなどを襲うことがある。そのため、チリやアルゼンチンの牧畜地域では害獣とみなされ、捕獲、射殺、毒餌の対象となってきた。

特に子羊の被害が問題にされるが、クルペオギツネが食べていた家畜が、自ら仕留めたものなのか、死骸を利用したものなのかを区別するのは難しい。家畜被害のすべてがクルペオギツネによるものとは限らない。

家畜を守るためには、無差別な捕殺だけでなく、次のような対策が求められる。

  • 夜間に家畜を囲いへ入れる
  • 出産直後の子羊を重点的に見守る
  • 家畜護衛犬を適切に管理する
  • 家畜の死骸を放置しない
  • 捕食の痕跡を正しく調査する
  • 毒餌を使用しない

毛皮を目的とした狩猟や捕獲も行われてきた。国や地域によって保護制度や捕獲規則は異なる。

フエゴ犬との関係

南アメリカ最南部のティエラ・デル・フエゴでは、先住民のセルクナムやヤーガンが「フエゴ犬」と呼ばれるイヌ科動物を人間のそばで飼っていたという記録がある。

フエゴ犬は狩猟の補助、漁で得た獲物の運搬、住居内で体を温めることなどに利用されたと伝えられている。ヨーロッパ人の入植後に姿を消し、19世紀末から20世紀初頭までに絶滅した。

博物館に残されたフエゴ犬とされる標本を分析した研究では、イヌよりもクルペオギツネに近い遺伝的特徴が示された。このため、フエゴ犬はクルペオギツネを飼い慣らした動物だった可能性がある。

ただし、調査できる標本は限られている。歴史上「フエゴ犬」と呼ばれたすべての個体がクルペオギツネだったのか、どの程度人為的に繁殖されていたのかは確定していない。単に野生個体を馴らした段階だったのか、何世代にもわたって家畜化されていたのかについても議論が続いている。

キツネとの関係

クルペオギツネは、キツネ属のアカギツネによく似た姿をしている。この外見は近縁だからというだけでなく、小型動物を追う地上性捕食者として似た環境に適応した結果でもある。

アカギツネとの主な違いは次のとおりである。

比較項目

クルペオギツネ

アカギツネ

属

スジオイヌ属

キツネ属

主な分布

南アメリカ

北半球を中心とする広い地域

体格

頑丈で大型

比較的細身

尾の先

おもに黒色

おもに白色

体色

灰色と赤褐色が混じる

赤褐色が中心

系統

南米産イヌ科の系統

真のキツネと呼ばれる系統

南アメリカでは単に「zorro」と呼ばれるが、スペイン語の「zorro」は一般にキツネを意味する。英語名にも「fox」が使われるため、日常的な意味ではキツネの仲間として扱われている。

保全状況

IUCNレッドリストでは低危険種に分類されている。分布域が広く、多様な環境を利用できるため、種全体として直ちに絶滅する危険性は低いとされる。

国際的な商取引はワシントン条約附属書IIによって管理されている。

主な脅威は次のとおりである。

  • 家畜を守る目的での捕殺
  • 毛皮を目的とした狩猟
  • 毒餌による中毒
  • 道路での交通事故
  • 野生化したイヌとの競争や交雑
  • イヌから伝わる感染症
  • 鉱山、道路、農牧地開発による環境変化
  • 獲物となる野生動物の減少

種全体では安定しているとみられる一方、地域によっては捕殺や生息地の改変によって個体数が減少している可能性がある。保全には、家畜被害を減らす非致死的な対策と、地域ごとの個体数調査が重要である。

参考リンク

・Animal Diversity Web「Lycalopex culpaeus」

https://animaldiversity.org/accounts/Lycalopex_culpaeus/

・IUCN SSC Canid Specialist Group「Culpeo」

参考リンク

https://www.canids.org/species/view/PREKFX223291