あかぎつね アカギツネ
食肉目イヌ科キツネ属に分類される哺乳類である。北半球の広い地域に分布し、キツネ属のなかでも最大級の体格を持つ。
概要
アカギツネは、食肉目イヌ科キツネ属に分類される哺乳類である。北半球の広い地域に分布し、キツネ属のなかでも最大級の体格を持つ。森林や草原、ツンドラ、砂漠、農地、都市部など、多様な環境に適応できる代表的なキツネである。
日本で一般に「キツネ」と呼ばれるホンドギツネや、北海道に生息するキタキツネも、アカギツネの地域的な亜種として扱われる。そのため、アカギツネは日本のキツネを含む種全体の名称でもある。
基本情報
- 分類:哺乳綱・食肉目・イヌ科・キツネ属
- 学名:Vulpes vulpes
- 英名:Red fox
- 頭胴長:約45.5~90センチメートル
- 尾長:約30~55.5センチメートル
- 体重:約3~14キログラム
- 分布:ヨーロッパ、アジア、北アメリカ、北アフリカの一部など
- 生息環境:森林、草原、ツンドラ、砂漠、山地、農地、郊外、都市部など
- 食性:雑食
- 活動時間:主に夜間および薄明薄暮時
- IUCNレッドリスト:低懸念(LC)
体格には地域差があり、一般に寒冷な北方地域の個体ほど大きく、温暖・乾燥した地域の個体ほど小さい傾向がある。アカギツネはイヌ科のなかでも特に分布域が広く、北極圏周辺から温帯、乾燥地域まで進出している。Animal Diversity Web
外見
典型的な個体は背中から体側にかけて赤褐色の毛に覆われ、喉、胸、腹部は白色または淡い灰色となる。耳の裏側と四肢の下部は黒っぽく、長くふさふさした尾の先端は白いことが多い。
名前に「アカ」と付いているものの、すべての個体が赤褐色とは限らない。背中と肩に黒い模様が現れる「十字ギツネ」や、全身が黒色から銀灰色になる「ギンギツネ」など、さまざまな毛色の変異が存在する。ギンギツネは独立した種ではなく、基本的にはアカギツネに見られる黒化型の一つである。
細長い吻、大きくとがった耳、比較的短い四肢、長い尾を持つ。瞳孔は明るい場所では縦長に細くなり、イヌやオオカミとは異なる印象を与える。尾は走行時の姿勢を安定させるほか、睡眠時に体へ巻き付けて防寒に利用される。
分布
自然分布域はヨーロッパのほぼ全域、アジアの広い範囲、北アメリカ、北アフリカの一部に及ぶ。北半球を中心として非常に広く分布し、イヌ科動物のなかでも最大級の分布域を持つ。
オーストラリアには狩猟目的などで人為的に持ち込まれ、その後野生化した。現地では在来の小型哺乳類、鳥類、爬虫類などを捕食する外来生物となっており、生態系へ大きな影響を与えている。
日本に生息するアカギツネ
日本には、主に次の二つの亜種が生息している。
- ホンドギツネ(Vulpes vulpes japonica)
本州、四国、九州などに分布する。一般にキタキツネよりやや小柄で、山林、農地、里山などを中心に暮らしている。 - キタキツネ(Vulpes vulpes schrencki)
北海道などに分布する。ホンドギツネより大きくなる傾向があり、草原、森林、農地、高山帯、都市周辺など幅広い環境で見られる。
亜種の区分や学名の扱いは、採用する分類体系や研究によって異なる場合がある。しかし、日本のホンドギツネとキタキツネが、種としてはいずれもアカギツネに含まれる点は共通している。
生態
基本的には単独で行動し、オオカミのような大規模な群れは作らない。ただし、繁殖期や子育ての時期には、つがいとその子どもを中心とした家族単位で生活することがある。地域や個体数、食物の量によっては、血縁関係のある複数の雌が同じ行動圏で暮らす場合もある。
主に夜間や夕方、早朝に活動するが、人間の少ない地域や子育て中などには昼間に姿を見せることもある。尿、糞、体の臭腺から出るにおいを使って縄張りや通り道を示し、鳴き声、表情、姿勢なども個体間の意思表示に用いる。
巣穴は自ら掘るだけでなく、ウサギやアナグマなどが作った穴を広げて利用することもある。倒木の下、岩の隙間、土手、建物の床下などが巣として選ばれる場合もある。普段は地上で休むことも多く、巣穴は特に出産と子育てのための場所として重要である。
食性と狩り
食性は雑食であり、地域や季節に応じて利用できるものを幅広く食べる。主な食物はネズミなどの小型哺乳類、ウサギ、鳥類、爬虫類、両生類、昆虫、ミミズ、果実、種子などである。動物の死骸や人間が捨てた食品を利用する場合もある。
小動物を狙うときは音や気配を頼りに獲物の位置を探り、高く跳び上がって前脚から地面へ飛び込む特徴的な狩りを行う。すぐに食べない獲物を土や落ち葉の下へ隠し、後で掘り出して食べる貯食行動も見られる。
この柔軟な食性は、アカギツネが寒冷地から都市まで進出できる理由の一つである。また、ネズミ類などを捕食して個体数を調整する一方、果実を食べて種子を運ぶ役割も担っている。Animal Diversity Web
繁殖
通常は年に一度繁殖する。繁殖時期は地域によって異なるが、おおむね冬から春にかけて交尾し、約49~56日の妊娠期間を経て出産する。1回に生まれる子どもの数は幅が広いものの、平均では4~5頭ほどである。
子どもは目が閉じた状態で生まれ、生後9~14日ほどで目を開く。生後4~5週間ほどで巣穴の外へ出始め、遊びや追いかけ合いを通じて狩りや社会行動を身につける。両親が食物を運ぶほか、地域によっては前年に生まれた雌などが子育てを手伝うこともある。
秋頃になると若い個体の多くが親元を離れ、自分の生活場所を求めて移動する。野生では事故、病気、狩猟などの影響を受けるため平均寿命は短いが、飼育下では10年以上生きる場合がある。
人間との関係
アカギツネは古くから毛皮の利用、狩猟、信仰、昔話、文学、絵画などを通して人間と深く関わってきた。西洋では狡猾で機知に富んだ動物、日本では変身能力を持つ神秘的な存在や、稲荷神の使いとして表現されることが多い。
農村部ではネズミなどを捕食する有益な存在となる一方、鶏や小型の家畜を襲うこともある。都市部では生ごみや人から与えられた食物を利用し、人間の近くで生活する個体が増えている地域もある。
野生のアカギツネは、狂犬病や疥癬をはじめとする病気、地域によってはエキノコックスなどの寄生虫を保有する可能性がある。人に慣れた個体であっても触ったり餌を与えたりせず、野生動物として適切な距離を保つ必要がある。
キツネとの関係
アカギツネは、世界で最も広く知られている「キツネ」そのものを代表する種である。分類上はキツネ属に属し、ホッキョクギツネ、フェネック、コサックギツネなどとは別種である。
一方、ホンドギツネ、キタキツネ、ギンギツネ、十字ギツネなどは、独立したキツネの種として紹介されることがあるものの、それぞれアカギツネの亜種または毛色の変異に当たる。アカギツネを理解することは、日本の野生のキツネだけでなく、世界各地に見られる多様なキツネの姿を知るための基本となる。
保全状況
アカギツネは広い分布域と高い環境適応力を持ち、種全体では絶滅の危険性が低いと考えられている。IUCNレッドリストでは「低懸念(LC)」に分類されている。Animal Diversity Web
ただし、すべての地域個体群が安定しているわけではない。生息地の分断、交通事故、狩猟、感染症、他の食肉類との競合などにより、地域的に減少している個体群も存在する。その一方、人為的に導入されたオーストラリアなどでは在来生物を脅かす外来種として駆除の対象になっている。アカギツネと人間の関係は、生息する地域によって保護、共存、管理という大きく異なる課題を抱えている。