きっとぎつね キットギツネ

アメリカ合衆国南西部からメキシコ北部にかけての砂漠や乾燥草原に生息する小型のキツネである。

概要

キットギツネは、アメリカ合衆国南西部からメキシコ北部にかけての砂漠や乾燥草原に生息する小型のキツネである。

北アメリカに生息するイヌ科動物の中では最小級であり、細い体と非常に大きな耳を持つ。昼間の暑さを避けて巣穴で休み、気温の下がる夜間に活動するなど、乾燥地での生活に高度に適応している。

外見や生態がスウィフトギツネによく似ており、かつては同じ種の亜種として扱われることもあった。現在は一般に、それぞれ独立した種として分類されている。

基本情報

項目

内容

分類

哺乳綱・食肉目・イヌ科・キツネ属

学名

Vulpes macrotis

英名

Kit Fox

体長

約45.5~53.5センチメートル

尾長

約25~34センチメートル

耳長

約7.1~9.5センチメートル

体重

約1.6~2.7キログラム

食性

雑食性に近い肉食性

主な活動時間

夜行性

分布

アメリカ合衆国南西部、メキシコ北部・中央部

保全状況

低危険種(LC)

雄は雌よりもわずかに大きく、平均体重は雄が約2.3キログラム、雌が約1.9キログラムである。ただし、地域や個体によって差がある。

名前の由来

英名の「Kit Fox」に含まれる「kit」は、英語でキツネなどの子供を表す言葉である。小さく愛らしい体つきから、この名前がついたと考えられている。

学名の種小名「macrotis」は、古代ギリシャ語で「大きい」を意味する「makros」と、「耳」を意味する「ous」またはその属格形「otos」に由来する。「大きな耳を持つもの」という意味であり、本種の目立つ特徴を表している。

外見

体毛は黄褐色、灰褐色または砂色で、乾燥地の地面に溶け込みやすい。背中には灰色や黒色が混じり、腹部と喉は白色または淡いクリーム色である。

顔は細く、吻も比較的短い。鼻の両側には黒っぽい模様が現れることがある。

最大の特徴は、頭部に対して非常に大きな耳である。大きな耳は、地中や植物の陰で動く小動物の音を捉えるだけでなく、体内の熱を外へ逃がす役割も持つ。

尾は長くふさふさしており、先端が黒くなる。尾の先が白いオジロスナギツネなどを見分ける際の手掛かりになる。

分布

アメリカ合衆国南西部からメキシコ北部・中央部にかけて分布する。

アメリカ合衆国では、おもに次の地域に生息している。

  • カリフォルニア州
  • オレゴン州南東部
  • ネバダ州
  • ユタ州
  • アリゾナ州
  • ニューメキシコ州
  • コロラド州南西部
  • テキサス州西部

メキシコでは、バハ・カリフォルニア半島やチワワ州、コアウイラ州、ヌエボ・レオン州などで確認されている。

標高約400~1,900メートルまでの地域に生息するが、分布は連続しておらず、適した乾燥地に点在している。

生息環境

砂漠、半砂漠、乾燥草原、低木地、チャパラルなど、降水量が少なく植生のまばらな環境を好む。

特に、巣穴を掘りやすい砂質または柔らかい土壌のある場所が重要である。クレオソートブッシュの生える平原や砂丘にも暮らし、農地や都市周辺の空き地を利用することもある。

草木が密集した場所や、土壌が硬く巣穴を掘れない場所はあまり好まない。

砂漠への適応

キットギツネは、乾燥地で暮らすための複数の特徴を備えている。

大きな耳には多くの血管が通っており、そこから体熱を放出できる。また、足の裏は毛で覆われ、熱い砂や荒れた地面から足を守っている。この足裏の毛には、柔らかい砂の上で体重を分散させる働きもある。

昼間は涼しい巣穴の中で過ごし、日没後に活動する。必要な水分の大部分を獲物から得られるため、水場へ頻繁に通う必要がなく、直接水を飲むことは少ない。

巣穴

キットギツネの生活は、巣穴と密接に結びついている。休息、子育て、暑さや寒さの回避、天敵からの避難など、さまざまな目的で一年を通して巣穴を使用する。

自分で巣穴を掘るほか、プレーリードッグ、カンガルーネズミ、ジリス、アメリカアナグマなどが掘った穴を広げて利用することもある。

一つの行動圏内に複数の巣穴を持ち、数日から数週間ごとに別の巣穴へ移る。こうした移動には、ノミなどの寄生虫が増えるのを防ぐ効果があると考えられている。

巣穴には一つまたは複数の出入り口があり、トンネルの長さが3~6メートルに達することもある。入口はキットギツネが通れる程度に狭く、体の大きなコヨーテが侵入しにくい構造になっている。

食性

おもに小型哺乳類を食べるが、獲物の種類は地域や季節によって変化する。

主な食べ物には次のようなものがある。

  • カンガルーネズミ
  • プレーリードッグ
  • ジリス
  • ワタオウサギ
  • オグロジャックウサギ
  • 小鳥
  • トカゲ
  • ヘビ
  • 昆虫
  • 動物の死骸

食べ物が不足した場合には、果実などの植物質を食べることもある。ジョシュア・ツリー国立公園周辺では、メリヤムカンガルーネズミが特に重要な獲物となっている。

獲物の多くを単独で探し、優れた聴覚を使って地面や植物の陰にいる小動物を発見する。

生態

基本的には夜行性であり、暑い昼間は巣穴の中で休む。気温が低い季節には、夕方や早朝に活動することもある。

狩りはおもに単独で行うが、つがいや親子が一緒にいる姿も見られる。行動圏は約2.4~11.6平方キロメートルとされ、周辺の個体の行動圏と一部重なることがある。

縄張り争いは比較的少なく、繁殖期以外は単独で過ごす傾向が強い。尿や糞を使って巣穴や通り道に匂いを残し、ほかの個体へ自分の存在を伝える。

野生での寿命は一般に数年程度で、8年未満の個体が多いと考えられている。飼育下では約12年生きた記録がある。

繁殖

多くの個体は一夫一妻に近いつがいを形成する。ただし、地域や個体群によっては一頭の雄が複数の雌と繁殖する場合もある。

交尾期はおおむね12月中旬から2月である。妊娠期間は約49~55日で、雌は2月から3月中旬ごろに巣穴で子供を産む。

一度に生まれる子供は1~7頭で、平均は約4頭である。生まれたばかりの子供は目が閉じており、自力で巣穴の外へ出ることはできない。

授乳中は雄が狩りを行い、母親へ食べ物を運ぶ。子供が離乳すると、両親で獲物を与えるようになる。子供は生後約4週間で巣穴の外に姿を見せ、約8週間で離乳する。

生後3~4か月になると親と一緒に狩りを始め、5~6か月ほどで自立する。多くは秋までに生まれた場所を離れるが、若い雌が翌年まで親元に残り、次に生まれた子供の世話を手伝うこともある。

天敵

最大の天敵はコヨーテである。コヨーテはキットギツネを捕食するだけでなく、餌や巣穴をめぐる競争相手にもなる。

ほかにも、次のような動物に襲われることがある。

  • ボブキャット
  • アカギツネ
  • イヌ
  • アメリカアナグマ
  • イヌワシなどの大型猛禽類

危険を感じるとすばやく巣穴へ逃げ込む。巣穴の入口が狭いことは、コヨーテなどから身を守るうえで大きな利点となる。

人間との関係

キットギツネは、農作物を食害するネズミ類を捕食するため、害獣の個体数を抑える役割を持つ。

一方、農地開発、都市化、道路建設、石油・天然ガス開発などにより、生息地の消失と分断が進んでいる。道路を横断中に自動車にはねられる事故も、主要な死亡原因の一つである。

害獣駆除用の毒餌や殺鼠剤を獲物を通して摂取する二次中毒、感染症、放し飼いのイヌによる襲撃なども問題となる。

都市周辺では、地下道、排水管、建物の床下、空き地などを巣として利用する場合がある。人間の生活圏に適応できる個体がいる一方、交通事故や化学物質に触れる危険も高くなる。

キツネとの関係

キットギツネはキツネ属に分類され、スウィフトギツネと非常に近い関係にある。

両種は小型で大きな耳を持ち、乾燥した開けた土地に生息する点が似ている。一般に、キットギツネはより乾燥した砂漠地帯に多く、耳が大きく尾が長い。スウィフトギツネはグレートプレーンズなどの草原地帯に多い。

ニューメキシコ州やテキサス州の一部では両種の分布域が接しており、自然交雑が起きる場合がある。このため、かつてはキットギツネをスウィフトギツネの亜種とする分類も提案されていた。

アカギツネとは生息域の一部が重なり、餌や巣穴をめぐって競争することがある。体の大きなアカギツネが、キットギツネを攻撃する場合もある。

サンホアキンキットギツネ

サンホアキンキットギツネは、カリフォルニア州のサンホアキン・バレー周辺に分布するキットギツネの亜種である。

学名は「Vulpes macrotis mutica」とされる。かつてはサンホアキン・バレーの草原や低木地に広く生息していたが、大規模な農地開発と都市化によって生息地の多くを失った。

現在は残された自然環境だけでなく、油田、農地の周辺、都市部の空き地などにも生息している。しかし、孤立した個体群では交通事故、殺鼠剤、感染症、コヨーテによる捕食などの影響を受けやすい。

種全体のキットギツネは低危険種に分類されている一方、サンホアキンキットギツネはアメリカ合衆国の絶滅危惧種法に基づく絶滅危惧種として保護されている。

保全状況

キットギツネは、IUCNレッドリストでは低危険種に分類されている。種全体としては比較的広い分布域を持つが、すべての地域で安定しているわけではない。

主な脅威は次のとおりである。

  • 農地や住宅地への転換
  • 道路による生息地の分断
  • 自動車との衝突
  • 殺鼠剤や毒餌による二次中毒
  • コヨーテや野生化したイヌによる捕食
  • 感染症
  • 地下資源開発
  • 気候変動による乾燥地の環境変化

保全には、生息地をまとまった状態で残すこと、分断された生息地を移動経路で結ぶこと、ロードキルや殺鼠剤の影響を減らすことが重要である。

参考リンク

・Animal Diversity Web

https://animaldiversity.org/accounts/Vulpes_macrotis/

・ジョシュア・ツリー国立公園

https://www.nps.gov/jotr/learn/nature/kitfox.htm

・U.S. Fish and Wildlife Service

参考リンク

https://www.fws.gov/species/san-joaquin-kit-fox-vulpes-macrotis-mutica