くみきょく『きゅうび』~せっしょうせき/おんみょうざ 組曲『九尾』~殺生石/陰陽座
「組曲『九尾』~殺生石」は、日本のヘヴィメタルバンド・陰陽座による楽曲である。2009年9月9日に発売された9thアルバム『金剛九尾』に収録され、「組曲『九尾』~玉藻前」「~照魔鏡」「~殺生石」と続く三部作の最終章にあたる。作詞・作曲は瞬火が担当している。 第一章では絶世の美女・玉藻前として人間を誘惑し、第二章では九尾の狐である正体を暴かれた妖狐が、本作ではついに討伐される。そして死した後もその怨念は消えず、近づく生き物を死に至らせる「殺生石」へと変じていく。 日本に伝わる玉藻前・九尾の狐伝説の終幕を描いた作品であり、キツネそのものだけでなく、九尾の狐の死後に生まれた殺生石の怪異までを題材としている。
基本情報
タイトル:組曲「九尾」~殺生石
アーティスト:陰陽座
作詞:瞬火
作曲:瞬火
収録アルバム:金剛九尾
発売日:2009年9月9日
収録順:11曲目
発売元:キングレコード
規格品番:KICS-1484
国:日本
『金剛九尾』では、以下の三曲が連続して収録されている。
- 組曲「九尾」~玉藻前
- 組曲「九尾」~照魔鏡
- 組曲「九尾」~殺生石
つまり「殺生石」は、九尾の狐・玉藻前をめぐる一連の物語を締めくくる第三章である。
組曲「九尾」の最終章
組曲「九尾」は、玉藻前として人間社会へ入り込んだ九尾の狐が、正体を暴かれ、討伐され、その怨念が殺生石となるまでを三曲で描いた作品である。アルバム公式情報でも三曲は9~11曲目に連続配置され、すべて瞬火が作詞・作曲を担当している。
物語を整理すると、
「玉藻前」
人間の美女へ化け、宮廷で人間を魅了する
↓
「照魔鏡」
正体が九尾の狐であることを暴かれる
↓
「殺生石」
那須野で討伐され、死後に殺生石となる
という流れになる。
「殺生石」は、それまで人間の姿を中心に描いてきた九尾が、最終的に怪異そのものへ変化していく章である。
楽曲について
「組曲『九尾』~殺生石」は、正体を見破られた九尾の狐が人間たちによって追われ、その最期を迎えた後までを描く楽曲である。
歌詞には、命を奪われてもなお消えることのない怨念、苦しみ、怒りといったものが濃く表現されている。歌ネットでも作詞・作曲は瞬火と確認でき、三部作の結末として九尾の狐の執念を描く内容となっている。
第一章の官能的な玉藻前や、第二章の正体露見とは雰囲気が変わり、本作では「死」と「怨念」が物語の中心となる。
九尾は肉体を滅ぼされても終わらない。
その魂や怨念が石へ宿り、死後も人間や動物を害し続ける。
妖狐の物語が「狐を退治して終わり」ではなく、さらに新しい怪異へ変化するところが、本作最大の特徴である。
キツネとの関係
本作は、九尾の狐・玉藻前の伝説そのものを題材としているため、キツネとの関係は極めて深い。
ただし、「殺生石」の段階では、九尾はすでに人間の美女として宮中にいる存在ではない。
正体を暴かれた狐は討伐され、やがて肉体そのものも失う。
そこから、
九尾の狐
↓
死した妖狐
↓
怨念を宿した殺生石
という変化が起こる。
つまり本作では、「狐が死んだ後に何になったのか」までがキツネ文化の一部として描かれている。
殺生石とは
殺生石は、栃木県那須地方に伝わる玉藻前・九尾の狐伝説と深く結び付いた石である。
伝説では、玉藻前の正体であった九尾の狐が那須野で討たれた後、その魂が巨大な石へ取り憑いたとされる。
その石は強い毒気を放ち、近づいた人間や鳥獣を死に至らせたことから「殺生石」と呼ばれるようになった。国立国会図書館も、玉藻前を金毛の九尾の妖狐とし、那須野で殺生石となって死後も強い毒気を放ったという伝説を紹介している。
そのため殺生石は、単なる石ではない。
九尾の狐の死後の姿であり、妖狐の怨念そのものを象徴する存在である。
九尾の狐の討伐
玉藻前の正体が明らかになった後、九尾の狐は宮廷を離れ、下野国の那須野へ逃れたと語られる。
能「殺生石」の物語でも、狐の化け物であることを陰陽師・安倍泰成に見破られた玉藻前が那須野へ逃れ、三浦介・上総介らが率いる追討側によってついに射伏せられたとされている。
ここで、それまで人間を翻弄してきた九尾の立場が完全に逆転する。
宮廷では人間を誘惑する側だった。
しかし正体を見破られた後は、人間たちから追われる獣となる。
妖狐と人間の力関係が逆転した末に、九尾は命を失う。
「殺生石」は、その敗北と死から始まる物語である。
死んでも終わらない九尾
普通の妖怪退治であれば、妖怪を倒した時点で物語は終わる。
しかし九尾の狐は違う。
討ち取られて肉体を失っても、その怨念は消滅せず、殺生石へと宿る。
能「殺生石」でも、玉藻前の魂が巨石に取り憑き、近づく生き物を殺し続けたとされている。
国立国会図書館も、玉藻前が下野国那須野で殺生石となり、死してなお強烈な毒気によって鳥や獣を死なせたという伝説を紹介している。
この「死後も災いを残す」という性質によって、九尾の狐は単なる強大な動物妖怪を超えた存在となる。
本作でも、肉体の死よりも「死んでも残り続ける憎しみ」の方が強く意識されている。
狐から石への変化
組曲「九尾」全体を見ると、主人公の姿は何度も変化する。
最初は美しい人間の女性「玉藻前」。
次に、本当の姿である九尾の狐。
そして最後には、動くことのない殺生石となる。
つまり、
女性
↓
狐
↓
石
という三段階の変化が起きる。
狐が人間へ化ける話は日本の昔話でも多く見られるが、玉藻前伝説では、死後さらに無生物である石へ変化する。
この壮大な変化の最後を描いたものが「組曲『九尾』~殺生石」である。
怨念を宿す狐
本作で特に重要なのが「怨念」である。
玉藻前は人間たちに正体を暴かれ、追われ、最後には殺される。
しかし、その怒りや憎しみは肉体の死によって消えることがない。
むしろ石となることで、動物だった頃以上に長い時間、人間へ災いをもたらす存在となる。
ここでは「狐」という生物そのものより、
狐の魂
狐の怨念
狐が残した怪異
が物語の中心になっている。
九尾の狐という妖怪の力が、死後も土地そのものへ残留するという非常に日本的な怪異譚となっている。
那須野
殺生石伝説の舞台となるのが、下野国那須野、現在の栃木県那須地方である。
能「殺生石」でも、物語の舞台は下野国那須野の原とされ、高僧・玄翁がそこを通りかかったことから物語が始まる。
玉藻前の物語は宮廷で始まるが、その終幕は都から離れた那須野で迎えられる。
つまり、
宮廷=玉藻前として栄えた場所
那須野=九尾の狐として討たれた場所
という対照的な二つの場所が存在する。
「殺生石」という言葉は、この那須野に残った九尾の狐伝説を象徴する名称となっている。
玄翁和尚と殺生石
殺生石の物語には、九尾の狐が倒された後にも続きがある。
能「殺生石」では、高僧・玄翁が那須野を通り、石の周囲を飛んでいた鳥が落ちる様子を目撃する。
やがて玉藻前の亡霊から殺生石の由来を聞いた玄翁は、石に宿る魂を仏道へ導くため法事を行う。
すると石が割れ、狐の精霊が現れる。
狐の精霊は、それまで世界各地で人々を惑わせ、殺生石となって多くの命を奪ってきたことを語った後、仏法によって救われ、今後は悪事を働かないと誓う。
したがって殺生石伝説には、
九尾の死
↓
殺生石への変化
↓
人々への災い
↓
高僧による鎮魂
という、さらに長い物語が存在する。
能「殺生石」
殺生石と九尾の狐の物語は、能の演目「殺生石」としても古くから伝えられている。
能では、高僧・玄翁が那須野の殺生石を訪れるところから始まり、女の姿をした玉藻前の亡霊が石の由来を語る。
後半では狐の精霊が姿を現し、自らが玉藻前となって鳥羽院を惑わせ、正体を暴かれ、那須野で追討された過去を振り返る。
陰陽座は日本の古典文学や伝承、能・歌舞伎などに通じる題材を数多く楽曲化しており、「組曲『九尾』~殺生石」もそうした日本の伝統的な妖怪物語と強く重なる作品である。
ただし、陰陽座がこの曲を能「殺生石」そのものの直接的な音楽化として制作したと明言した資料までは確認できないため、伝承上の共通性として捉えるのが適切である。
玉藻前と殺生石
国立国会図書館では、玉藻前について「金の毛の九尾の妖狐」と紹介している。
この妖狐は古代中国の皇帝や日本の鳥羽上皇を惑わせた後、陰陽師・安倍泰成によって正体を見破られ、最終的に下野国那須野で殺生石になったとされる。
ここで重要なのは、「玉藻前」と「殺生石」が別々の妖怪ではないことである。
玉藻前
九尾の狐
殺生石
は、同一の存在の異なる姿である。
陰陽座の三部作も、この変化を段階的に描いている。
そのため最終章に「殺生石」という題名を置くことで、玉藻前という美女の物語が、最終的には狐の怨念が宿った石の怪異だったというところまで描き切っている。
「玉藻前」から「殺生石」へ
三部作を通して見ると、九尾の狐が持つ二面性が非常に分かりやすい。
第一章「玉藻前」では、美しい。
第二章「照魔鏡」では、恐ろしい。
第三章「殺生石」では、死後さえ人を害する。
つまり、物語が進むにつれて人間的な外見が失われていく。
美女としての姿が剥がれ、
狐としての姿が現れ、
最後にはその狐の肉体さえ消える。
それでも怨念だけは残る。
この「姿は失われても怪異だけが残る」という終わり方が、組曲「九尾」の大きな特徴である。
アルバム『金剛九尾』
「組曲『九尾』~殺生石」が収録された『金剛九尾』は、2009年9月9日にキングレコードから発売された陰陽座の9thアルバムである。品番はKICS-1484で、全12曲を収録している。
収録曲は以下の通りである。
- 貘
- 蒼き独眼
- 十六夜の雨
- 小袖の手
- 孔雀忍法帖
- 挽歌
- 相剋
- 慟哭
- 組曲「九尾」~玉藻前
- 組曲「九尾」~照魔鏡
- 組曲「九尾」~殺生石
- 喰らいあう
公式サイトでは全曲の作詞・作曲を瞬火が担当したことも確認できる。
また、2010年には陰陽座メンバー自身の監修による『金剛九尾』のスコアブックも発売され、「組曲『九尾』」三曲も収録された。
陰陽座公式での音源公開
「組曲『九尾』~殺生石」は、陰陽座の公式YouTubeチャンネルでも音源が公開されている。公式投稿では楽曲時間は約7分02秒となっている。
九尾の狐伝説を三曲で描く組曲の最後として、前二曲から連続して聴くことで、玉藻前の誘惑から正体露見、討伐、殺生石への変化という物語全体をより理解しやすい作品となっている。
陰陽座について
陰陽座は、日本の妖怪・伝承・歴史・古典文学などを題材とした楽曲を数多く制作してきたヘヴィメタルバンドである。
「組曲『九尾』」では、日本の妖狐伝説の中でも特に有名な玉藻前を三曲という大規模な形式で描いている。『金剛九尾』の9~11曲目に三部作をまとめて配置し、すべて瞬火が作詞・作曲を担当した。
その最終章「殺生石」では、
九尾の狐
玉藻前
狐の討伐
那須野
狐の死
殺生石への変化
死後も残る妖狐の怨念
という、日本の九尾伝説を構成する重要な要素が一つの楽曲へ集約されている。殺生石そのものも、玉藻前の魂が宿ったものとして古くから語られてきた。
「玉藻前」で人間を魅了する美女として現れ、「照魔鏡」で狐の正体を暴かれ、最後には「殺生石」となって死後も怪異を残す。
一匹の狐が、人間、妖怪、そして石へと姿を変えていく壮大な妖狐伝説の結末を描いた、キツネ文化との関係が極めて深い楽曲である。