ざ ふぉっくす/にっける くりーく The Fox/Nickel Creek
「The Fox」は、アメリカのアコースティック/プログレッシブ・ブルーグラス・グループNickel Creekが2000年に発表した楽曲である。 2000年3月21日に発売されたセルフタイトルアルバム『Nickel Creek』に収録されており、オリジナルCDでは11曲目に配置されている。Craft Recordings公式でも同アルバムを、Sugar Hill Recordsから発売され、Alison Kraussがプロデュースした作品として紹介している。 本曲はNickel Creekによるオリジナル曲ではなく、イングランドに古くから伝わる伝承歌「The Fox」のアレンジである。Shazamの配信クレジットではNickel Creek、Sean Watkins、Chris Thile、Sara Watkinsが編曲者として記載されている。 歌詞では、一匹の狐が寒い夜に巣を出て町へ向かい、農家で飼育されているガチョウとアヒルを捕らえる。そして獲物を巣へ持ち帰り、妻や子狐たちと食べる。 したがって本曲は、 「タイトルに狐があるだけの曲」 「人間を狐にたとえた曲」 ではなく、 「狐そのものを主人公とした伝承歌」 である。 さらに、夜に人里へ入り家禽を襲うという現実の狐の行動を基礎としながら、狐の家族が人間のように会話し、食卓を囲むという擬人化も加えられている。
基本情報
曲名:The Fox
アーティスト:Nickel Creek
原曲:イングランドの伝承歌「The Fox」
作詞・作曲:Traditional
編曲:Nickel Creek、Sean Watkins、Chris Thile、Sara Watkins
プロデュース:Alison Krauss
収録アルバム:『Nickel Creek』
発売日:2000年3月21日
オリジナルCD曲順:11曲目
楽曲時間:約2分30秒
レーベル:Sugar Hill Records
現在の配信・再発:Craft Recordings
ジャンル:ブルーグラス、プログレッシブ・ブルーグラス、アコースティック
国:アメリカ
Shazamの楽曲クレジットでは、Nickel Creekを演奏者、Sean Watkinsをギター、Chris Thileをマンドリン、Scott Thileをアコースティック・ベースとして掲載している。また、Alison Kraussがプロデューサーとしてクレジットされている。
『Nickel Creek』のオリジナル盤では「The Fox」は11曲目、2分30秒の楽曲として収録されている。
楽曲について
「The Fox」は、一匹の狐による夜の狩りを物語形式で描いた伝承歌である。
物語は、寒い夜に狐が巣を出るところから始まる。
狐は月明かりを頼りに町を目指し、長い距離を進んで農家へたどり着く。
そこにはアヒルとガチョウが飼育されている。
狐はその中から獲物を捕らえ、ガチョウをくわえ、アヒルも背負うようにして逃げていく。
農家の女性は異変に気づき、ガチョウがいなくなったことを叫ぶが、狐はそのまま逃走する。
最終的に狐は自分の巣へ帰り、そこでは多数の子狐たちが待っている。
狐とその妻は捕らえたガチョウを食べ、子狐たちも残った骨までかじる。
つまり、
狐が空腹になる
↓
夜に狩りへ出る
↓
人里へ向かう
↓
ガチョウとアヒルを捕る
↓
巣へ持ち帰る
↓
家族と食べる
という明確な狐の物語である。
原曲について
Nickel Creekの「The Fox」は、彼ら自身が新しく作った楽曲ではない。
原曲はイングランドに伝わる古い伝承歌で、Roud Folk Song Indexでは131番に分類されている。MusicBrainzでも作詞・作曲者をTraditionalとして登録している。
この歌には、
「The Fox」
「The Fox Went Out」
「The Fox Went Out on a Chilly Night」
「The Fox and the Goose」
など複数の題名や歌詞形が存在する。
伝承の過程で言葉や節が変化しているため、歌手によって歌詞の細部が異なる場合がある。
Nickel Creek版も、その長い伝承の中にある現代的なアレンジの一つである。
Nickel Creekによるアレンジ
Nickel Creek版の大きな特徴は、古い民謡を現代的なブルーグラス/アコースティック音楽として演奏していることである。
Shazamのクレジットでは、Nickel CreekのほかSean Watkins、Chris Thile、Sara Watkinsが編曲者として記載されている。
Chris Thileのマンドリン、Sean Watkinsのギターなど、アコースティック楽器を中心とした軽快な演奏によって、狐が夜の町へ向かう物語がテンポよく進行する。
歌詞はかなり古い伝承に由来するが、演奏そのものは2000年前後のプログレッシブ・ブルーグラスらしい明快で精密なアンサンブルとなっている。
そのため、歴史的な伝承歌を現代の若い世代へ伝えた録音の一つとしても位置付けることができる。
キツネとの関係
本曲における狐との関係は非常に強い。
狐は、
タイトルに登場する
歌詞の主人公である
寒い夜に巣を出る
月明かりの中を移動する
農家へ向かう
ガチョウとアヒルを捕らえる
獲物を巣へ持ち帰る
妻や子どもと食べる
という一連の行動を取る。
したがって、
「狐を象徴として使用した曲」
ではなく、
「狐そのものを描いた動物歌」
である。
ただし、狐が月へ祈ったり、家族が人間のような会話をしたり、食事をナイフとフォークで切り分けたりするため、完全な生態描写ではない。
つまり、
「実在する狐の捕食行動」
+
「昔話・童謡的な擬人化」
という二つの要素を持っている。
狐と家禽
本曲の重要な要素が、狐とガチョウ・アヒルとの関係である。
狐は農家へ侵入し、そこで飼育されている家禽を捕らえる。
この構図は、ヨーロッパの農村文化において古くから見られる狐像の一つである。
現実のアカギツネも小型哺乳類、鳥類、昆虫などを捕食する雑食性の動物であり、家禽を襲うこともある。
そのため、
「夜に農家へ現れて鳥を奪う狐」
という物語には、実際の人間と狐との関係が反映されている。
一方で、本曲では狐側の視点にもかなり重点が置かれている。
狐は単なる害獣として描かれるのではなく、空腹を満たし、自分の家族へ食料を持ち帰る存在として描かれている。
狐の家族
Nickel Creek版では、狐が巣へ戻ると多数の子狐たちが待っている。
子狐たちは父親に、もう一度町へ行ってほしいと頼むほど食事を喜ぶ。
さらに狐とその妻はガチョウを食べ、子どもたちは骨までかじる。
ここでは狐が、
狩りをする父親
巣で待つ妻
食事を喜ぶ子どもたち
という、人間の家族と非常によく似た構成で描かれている。
もちろん現実の狐の家族生活をそのまま描いたものではなく、伝承歌としての擬人化である。
しかし、狐が単なる「家禽泥棒」ではなく、
「家族を養うために食料を持ち帰る親」
としても描かれていることは、本曲の興味深い点である。
狐は悪役なのか
人間側から見ると、狐は農家で飼育されている鳥を奪う存在である。
農家の女性も、ガチョウがいなくなったことに気づいて叫ぶ。
したがって、人間社会の側から見れば狐は明確な困り者である。
一方、歌そのものは狐を罰する展開にはならない。
狐は無事に巣へ帰り、家族と豪華な食事を楽しむ。
そのため物語の視点は必ずしも人間側だけではない。
狐は、
悪意を持った盗人
というより、
自分と家族が生きるために狩りをする動物
としても描かれている。
西洋の物語では狐が「狡猾な悪役」として登場することも多いが、本曲の場合、言葉巧みに他者を騙す場面は中心ではない。
むしろ素早く獲物を捕らえて逃げ切る、野生の捕食者としての性格が強い。
妖狐・狐神との関係
本曲に日本や東アジアの妖狐文化との関係はない。
登場する狐は、
妖狐
九尾の狐
白狐
狐神
稲荷の使い
人間に変身する狐
などではない。
狐が人間のような思考や家族関係を持つ部分はあるが、それは妖怪だからではなく、童謡・民謡に一般的な擬人化である。
また、
狐面
狐火
狐の嫁入り
狐憑き
などとも直接的な関係はない。
本曲は西洋の農村文化と狐との関係を背景とする伝承歌である。
Odetta版などとの関係
「The Fox」は長い歴史を持つ伝承歌であるため、Nickel Creek以外にも多数の歌手が録音している。
Odetta、Pete Seeger、Burl Ivesなど、多くのフォーク系ミュージシャンがこの歌を取り上げてきた。MusicBrainzでも「The Fox」をTraditional作品として登録し、複数の録音が存在することを確認できる。
したがってNickel Creek版とOdetta版は、
「同じ題名を持つ別作品」
ではなく、
「同じ伝承歌を、それぞれ異なる時代・スタイルで演奏したもの」
である。
Nickel Creek版はブルーグラス/アコースティック色が強く、2000年代の新しい世代による演奏として位置付けられる。
アルバム『Nickel Creek』について
「The Fox」は、2000年3月21日に発売されたセルフタイトルアルバム『Nickel Creek』に収録されている。
Craft Recordingsは同作について、それ以前にもNickel Creekは録音作品を発表していたものの、この2000年作をグループ自身が公式なデビュー作として考えていると説明している。
アルバムにはオリジナル曲だけでなく、伝承曲や他作家による楽曲も含まれる。
オリジナルCDの曲順は以下の通りである。
- Ode to a Butterfly
- The Lighthouse's Tale
- Out of the Woods
- In the House of Tom Bombadil
- Reasons Why
- When You Come Back Down
- Sweet Afton
- Cuckoo's Nest
- The Hand Song
- Robin and Marian
- The Fox
- Pastures New
「The Fox」は終盤の11曲目に配置されている。
なお、Craft Recordingsの2LP再発盤ではD面2曲目として配置されているため、媒体によって表示上の位置は異なる。
プロデュースについて
アルバム『Nickel Creek』は、ブルーグラス界を代表する歌手・フィドラーのAlison Kraussによってプロデュースされた。
Craft Recordingsも公式商品ページでAlison Kraussのプロデュース作品として紹介している。
Nickel Creekの若々しい演奏技術と、ブルーグラスの伝統を踏まえた音作りが組み合わされ、伝承曲である「The Fox」もアルバムのオリジナル曲と自然に共存している。
その意味では本曲は、
「古い狐の民謡を現代ブルーグラスとして再構築した作品」
と表現することもできる。
ライブ演奏について
Nickel Creekは「The Fox」をライブでも演奏している。
2006年のベストアルバム『Reasons Why: The Very Best』には、2000年11月16日にThe Freight and Salvageで録音された「The Fox」のライブ版が収録されている。
このライブ版は9分を超える長い演奏となっており、スタジオ版より大幅に拡張されている。
また、MusicBrainzにもNickel Creekによる2000年11月16日のライブ録音が登録されている。
そのため「The Fox」は、アルバムの一曲に留まらず、Nickel Creekがライブでも取り上げてきたレパートリーの一つである。
Nickel Creekについて
Nickel CreekはChris Thile、Sara Watkins、Sean Watkinsを中心とするアメリカのアコースティック・グループである。
マンドリン、フィドル、ギターなどブルーグラスの伝統的な楽器編成を基礎としながら、ロック、ポップ、ジャズ、クラシックなど幅広い音楽要素を取り入れている。
Craft Recordingsもセルフタイトル作について、ロック、オルタナティヴ、ジャズ、クラシックなどの要素を取り込んだ作品と紹介している。
「The Fox」は、そうしたNickel Creekの音楽性の中でも、ブルーグラスが持つ伝承歌とのつながりを特に分かりやすく示す作品である。
狐関連楽曲としての位置付け
「The Fox」/Nickel Creekは、「ふぉくすなっ♪」において非常に明確な狐関連楽曲として扱える。
狐は、
タイトルに登場する
歌詞の主人公である
夜に狩りへ出る
農家へ忍び込む
ガチョウとアヒルを捕らえる
獲物を巣へ持ち帰る
妻と子狐たちに食べさせる
という一つの完整した物語を持つ。
そのため、
「狐という言葉を比喩的に用いただけの曲」
「題名にFoxがあるだけの曲」
とは明確に区別できる。
より正確には、
「実在する狐を主人公とした伝承歌」
「狐と家禽の捕食関係を題材とした歌」
「狐の家族を擬人化した物語歌」
「古いイングランド民謡を現代ブルーグラスとして編曲した作品」
という位置付けになる。
また、この狐には妖力や変身能力などはなく、妖狐・九尾・稲荷信仰などとの関係もない。
人里で家禽を狩る現実の狐を基礎としながら、妻や子どものために獲物を持ち帰る「父親」のような役割を与えた、古くから伝わる狐の物語である。
Nickel Creek版は、その伝承歌を2000年代のプログレッシブ・ブルーグラスとして蘇らせた代表的な録音の一つであり、狐そのものが物語の中心にいるという点で、狐関連性の非常に高い楽曲である。